淡路島といえば、玉ねぎに海鮮丼!いずれにしても「食材に恵まれた島」のイメージがありませんか?
兵庫県主催で今回開催されたのは、「淡路島で考える、食と観光~地域共創を続ける一歩を掴む~越境学習 ひょうごSDGsワーケーションin洲本・淡路島」。2025年1月19日(日)~21日(火)の2泊3日、淡路島中央南東部の都市・洲本市を舞台に、「食」に関心を持つ全国からの参加者6名が集まり、「食と観光」を軸に地域の課題と魅力について考えるワーケーションを実践しました。
※本プログラムは、兵庫県の「令和6年度ひょうごSDGsワーケーション・スタート推進事業」の一環として開催されました。多様な働き方の実現やSDGsに資する取り組みによる企業価値向上を通じ、兵庫県への継続的な交流人口の増加を図る目的で実施されました。
1日目:食材との出合いと地域課題の理解
午前11時30分、「高速バス洲本バスセンター駅」に参加者6名が集合。静岡、愛知、大阪など全国から集まった、宿泊施設マネージャー、加工食品工場の専務取締役、エンジニアなど、バラエティ豊かな顔ぶれです。
ここで、企画を担当する株式会社シマトワークス(以下「シマトワークス」)の富田祐介さん、藤田美沙子さんと合流しました。
◆ランチで「はじめまして」
富田さん(写真奥側中央)は、兵庫県神戸市出身で大学卒業後は地元神戸と淡路島で建築設計業務を行う傍らイベントを企画・開催。約14年前、淡路島・洲本市への移住を機に島を拠点とした企画に専念し、2014年に法人化。現在は、洲本市地域おこし協力隊の藤田さんを含む6名のメンバーで地域の枠を超えた企画を手がけています。
はじめに向かったのは、淡路島の新鮮食材で作る一汁三菜を提供するごはん屋「ひさのま」。この日のメニューは「淡路鶏の柚子胡椒焼き」「冬野菜のお味噌汁」のほか、淡路島ブランドの「鮎原米(あいはらまい)」の炊き立てごはんなど。「鮎原米は、淡路島のお米の代表格。島内の人は皆知ってるくらい」と富田さん。参加者一同「お米がおいしい!」と、早くも淡路島の食材の虜になりました。
【ひさのま】
住所:兵庫県洲本市本町6-2-34
SNS:https://www.instagram.com/hisa_no_ma/
◆淡路島とどうかかわれるか、考える3日間
ランチ後は、シマトワークスが運営する「Workation Hub 紺屋町」へ移動。元酒屋だった建物をリノベーションした1階はカフェ・コワーキングスペース、2階がサテライトオフィスのワーケーション拠点で、木の温もりとレトロな雰囲気が心地よい空間です。
オリエンテーションでは、参加者それぞれからワーケーションへの参加目的がシェアされました:
- 特産品や郷土料理を活用し、自身のデザインスキルと掛け合わせたビジネス展開を模索し、食品卸業者と飲食店をつなげたい
- ビリヤニ事業における地域特産品を活用した商品開発のヒントを探したい
- 全国の食のプレイヤーとのネットワークを広げたい など
洲本市が抱える食にまつわる課題のインプットも。具体的には、人口減少や高齢化による食に関わる事業者の減少、それに起因するさまざまな課題や業種・職種を越えた交流機会の不足などが挙げられました。よって、シマトワークスでは、地域、分野、企業、そして業種や職種を越えたつながりを生み出す取り組みや機会の創出を目指しているそうです。
これらをふまえ、参加者には以下2つの課題が発表されました:
①ワーケーションを通して、自分自身が淡路島とどのようにかかわれるかを考える
②「食」のプレイヤーが食について学べる場をつくるにあたって、学びの場のコンテンツのアイデアを提案する
【Workation Hub 紺屋町】
住所:兵庫県洲本市本町7-1-32
HP:https://workation.life/hub/
◆「淡路島なるとオレンジ」生産者との交流
つづいて参加者は、約300年前に淡路島で発見された在来種「淡路島なるとオレンジ」の栽培、加工品の企画製造、パーラーの運営を行う「森果樹園」へ。酸味が強く、種が多く、分厚くて香り高い皮が特徴で、マーマレードやケーキなどの製菓素材や料理の風味づけに重宝される非常に希少な柑橘です。
まずは、果樹園にて収穫体験から。ハサミを手に「淡路島なるとオレンジ」を1つずつ収穫。これこそ、淡路島でしかできない体験!
次に温かい「淡路島なるとオレンジ」のマーマレードドリンクをいただきながら、16代目の森知宏さんにお話を伺いました。淡路島でデザイナーとして活躍する森さんは、「淡路島なるとオレンジ」を使ったまんじゅうのパッケージデザインの依頼をきっかけに、代々受け継がれた原種の栽培を担うように。
「なるとオレンジは非常に希少。10年前の時点で島内に約10人いる生産者で最も若い人が65歳。平均年齢は80歳くらいといわれていて、年々減っていく一方。ただ、風味が特徴的な唯一無二の果実なので、これをもっと広めることで日本の食が豊かになれば。なるとオレンジを守ることが日本の文化を守ることにつながるはず」と今抱える課題と可能性について、熱い想いを語ってくださいました。
最後は参加者から森さんへ質問や提案が活発に飛び交い、洲本市の生産者と情報交換できる貴重な機会となりました。
【森果樹園】
住所:兵庫県洲本市五色町鮎原西368
SNS:http://www.instagram.com/morikajuen/
◆豊かな地元食材に舌鼓するディナータイム
参加者は一度宿にチェックインし、夕食タイム!「ETHICA(エチカ)」で、淡路島・洲本市出身のオーナー 藤岡宏太(こうた)さんが手がけるフレンチイタリアンのコースを堪能しました。
藤岡さんは、東北で過ごした大学時代にフレンチレストランでアルバイトをしていたことをきっかけに料理の世界へ。卒業後に東京・フランスでフレンチの腕を磨くなか「食材が豊富な淡路島にいつかは戻りたい」という想いはずっと抱いていたそう。そんなとき洲本商工会議所1階の「チャレンジショップ」の募集を発見し、地元へUターン。淡路島の食材を使った本格フレンチが地域で評判を呼び、2019年に今のお店を開業したそうです。
「淡路和牛とジャガイモのグラタン」や「由良漁港で捕れたアナゴのリゾット」など、地元食材を存分に活かした料理の数々に、参加者からは「わあ、すごい!」「おいしい!」などと歓声が上がることも。ワインを片手に参加者同士の交流が弾み、すっかり打ち解けた雰囲気になりました。
【ETHICA】
住所:兵庫県洲本市本町5丁目4-15
SNS:http://www.instagram.com/ethica_awaji/
◆地域に根付く「はしご酒」文化を体験
洲本市では「はしご酒」の文化が根付いているそうで。地元バーのマスターやスナックのママと語りながら「サク飲み」を繰り返して何軒も巡る「バーホッピング」を楽しむのが洲本流とのこと。夜も深まり、二次会へ向かう参加者たちは、こうしてバーやスナックが立ち並ぶ夜の街へと消えていくのでした。
2日目:食材の宝庫・淡路島を体感
結局、日を越えるまで「バーホッピング」を楽しんだ参加者もいた模様。
この日は各々思い思いに朝ごはんを済ませ、10時に「Workation Hub 紺屋町」へ集合してプログラムがスタートです。
◆淡路島の「天然の良港」を見学
まずは、洲本市街地から海岸沿いを15分ほど車で走った「由良漁港」へ。目の前に紀淡海峡が広がり、瀬戸内海、大阪湾、さらに太平洋側へも漁に出られる恵まれた立地から「天然の良港」と呼ばれ、約150種類もの魚介類が水揚げされるそうです。島内はもちろん、日本全国に出荷されると聞き、淡路島の恵まれた水産資源を改めて実感しました。
【由良漁港】
住所:兵庫県洲本市由良町2355-1先
◆淡路島の代表魚「淡路島3年とらふぐ」に驚き
つづいて、「由良漁港」で水揚げされる高級海産物を中心に扱う「新島水産」へ。こちらでは、代表の新島芳実(よしみ)さんに冬の淡路島の代表魚「淡路島3年とらふぐ」を見せていただきました!市場によく出回っているのは「2年もの」。淡路では、さらに1年間育てて旨みを引き出すそうで、本物の証として1匹ずつに生産者ナンバーと個体ナンバーが記載された証明書が発行されます。
職人さんがとらふぐを捌くところを目の前で見学し、その芸術的な手捌きに圧倒された後は、食事処へ移動し、「とらふぐの唐揚げ」や海賊焼きをいただきました。
「とらふぐの唐揚げ」に「サザエ」「ヒオウギ貝」、さらに「アワビの肝焼きバター醤油風味」などを目の前で焼いてもらうライブ感たっぷりの昼食。海の幸に感謝して、心ゆくまで堪能しました。
【株式会社新島水産】
住所:兵庫県洲本市由良町由良2581
SNS:http://www.instagram.com/niijimasuisan/
◆午後はしっかりワークタイム
午後は洲本市街地に戻り、それぞれが思い思いの場所でワークタイム。
シマトワークスが運営する「S BRICK(エスブリック)」は、かつて紡績工場だったレンガ造りの建物をリノベーションしたコワーキングスペース兼イベントスペース。驚くことに、会員登録すれば利用料無料!歴史ある建物で仕事ができる贅沢な空間にもかかわらず、太っ腹です……!
同じ敷地内にある「A BRICK(エーブリック)」には、ブースに分かれたスペースもあり、ビデオ通話やオンライン会議があっても安心。
「Workation Hub 紺屋町」にて作業中のメンバーも。扉付きの個室も2部屋あるため、集中作業やオンライン会議もストレスフリーです。
【S BRICK】
住所:兵庫県洲本市洲本市塩屋1-1-8
【A BRICK】
住所:兵庫県洲本市洲本市塩屋1-17 アルチザンスクエア4F
2施設共通HP:https://sumoto-brick.jp/
◆夕ごはんの買い出しで「食材の宝庫」を体感
夕方4時から富田さん、藤田さんと有志の参加者で夕ごはんに使う食材の買い出しへ。「堀端筋」「コモード56商店街」で鮮魚店、精肉店、地元飲食店を巡る”食材探検”は、大型スーパーでの「一気買い」ではなかなか味わえない新鮮な体験でした。
驚いたのは、精肉店や鮮魚店などどこに立ち寄っても「淡路島産」の食材に出合えること。後で調べると、淡路島は食料自給率が100%を超えているそう(※)。ここまでで食べた鶏肉、牛肉、魚介類、鮎原米などがすべて淡路島産、さらに途中で寄り道して食べたジェラートには淡路島産のミルクや島イチゴが使われていました。まさに「食材の宝庫・淡路島」を実感する瞬間です。
※参考:淡路県民局・淡路教育事務所 一般財団法人 淡路島くにうみ協会『あわじ環境未来島副読本 みらい』p.9
◆地元食材で作るラストディナー
夜は参加者全員で「Workation Hub 紺屋町」に集まり、買い出した食材を使った料理を囲って交流会。お刺身や淡路牛のカレー、地元飲食店でテイクアウトした温かいおでん。
さらに、淡路島産鶏肉は、坪庭で七輪焼きに。
参加者の1人が作ってくれた淡路島産鶏肉入りビリヤニも大好評!淡路島の食の魅力の新たな可能性を感じました。
ワーケーション最後の夜ということで、初日からプロジェクトをサポートしてくださったシマトワークス・徳重正恵さん、玉井敬雅(たかまさ)さん、さらに地元食品商社・沖物産株式会社の入口武司さんも参加してくださり、和やかな雰囲気の中で情報交換が行われ、おひらきに。
◆洲本最後の夜もやはり……
洲本最後の夜もやはり、バー・スナック巡りで締めくくり。
なかには、1日目に見学した「淡路島なるとオレンジ」を使ったサワーを楽しむ参加者も。朝から晩まで淡路島の味覚を堪能した1日でした。
3日目:歴史と未来を考える
あっという間に最終日。
江戸時代に城下町として栄えた歴史を持つ洲本市を、朝日とともに探検です!
◆歴史ある絶景スポットへ朝さんぽ
有志で訪れた「洲本城跡」は圧巻!淡路島の中心として栄えた往時の威容が、今でも感じられます。
「洲本城跡」からは洲本市街地とともにエメラルドグリーンの大阪湾が一望でき、こちらも絶景。気持ちの良い朝を迎えられました。
【洲本城跡】
住所:兵庫県洲本市小路谷1272-2
◆歴史を知り、街の見え方が一変
次に参加者は「洲本市立淡路文化史料館」に向かい、洲本市の歴史を紐解きます。洲本城下町の完成から明治時代の「旧鐘紡(カネボウ)洲本工場」進出による近代化、そして現代に至る街の変遷を学ぶと、今まで何気なく歩いていた街並みの見方が一変!
とくにおもしろかったのは、毎日通っていた「弁天通」の秘密。実はここ、城下町の内町と外町を分けていた堀を埋めてできた通りだったんです。歴史やストーリーを知ることで、より洲本市を深く理解できた気がしました。
(キャプ)地元の老舗かまぼこ屋「淡路練り物語 あきやま」にて食べ歩きを楽しむ一幕も
【洲本市立淡路文化史料館】
住所:兵庫県洲本市山手1-1-27
HP:http://awajishimamuseum.com/
【淡路練り物語 あきやま】
住所:兵庫県洲本市本町1-4-5
HP:https://www.awaji-kamaboko.jp/
◆「食育体験都市として発信できそう」3日間の振り返り
午前中のプログラムを終え、「Workation Hub 紺屋町」で最後のワークタイム。
そして、いよいよ3日間の振り返りを行いました。
初日に出た2つの課題に対する考えと、3日間を通しての率直な感想として以下が挙がりました:
- 「淡路島3年とらふぐ」や「淡路島なるとオレンジ」がどのように生産され、流通されるかを知らなかった。直接地域の事業者に話を聞けて良かった
- 食材の魅力を定期的に届ける「島の特産品サブスク」が実現できたらおもしろそう
- 歴史を題材とした経営者研修やスタディーツアー、食をテーマにしたワークショップを一緒に企画したい
- 食料自給率100%超えの稀有な強みを生かし、「食育体験都市」としてもっとアピールできるはず
- 各食材に込められたストーリーをより深く発信することで、さらなる可能性が広がりそう など
絆が深まった参加者たち。最後に「今さらですが……」と名刺交換をしながら別れを惜しみました。今回できたネットワーク、きっといつか別の形で花開くことでしょう。
私たちに何ができるか、考えるきっかけに
2泊3日の洲本ワーケーションを通じて、淡路島の豊かな食材と歴史ある街並みに出合い、地域課題と可能性を多角的に理解できました。地方都市における新しい働き方のモデルケースとして、そして食と歴史が織りなす魅力的な地域として、洲本市の新たな可能性を肌で感じられた3日間。
淡路島は、タマネギや海鮮丼……!?もちろんそれらがすばらしいのは周知の事実。ただ、少し腰を据えて滞在するとお米、牛乳、鶏肉、「淡路島なるとオレンジ」……ほかにもさまざまな食材に恵まれた地産地消の島なのだと、体感できました。
これを守り続け、さらに発展させるために、私たちは何ができるか?本プログラムが、この記事が、「地域共創を続ける一歩を掴む」きっかけになれば幸いです。

■ライター名
yuuka
■所属
フリーランス
■プロフィール
奈良県在住フリーランス広報・取材ライター。イベント企画・運営やオウンドメディア、社外広報記事や社内報の制作などコンテンツづくりを軸とした企業広報支援に携わる。メディアとしての顔もあり、おでかけ・旅行ジャンルでの取材・執筆が得意。韓国料理好きが転じて、韓国トラベルライターとしても活動中。