まちを知り、まちに関わる。新たな一歩を見つける場「地域と私の未来会議〜兵庫の可能性を考える〜」開催レポート

「いつか」を「今」に。一歩踏み出す、未来会議

兵庫県では、若い世代の流出や事業者の減少、空き家の増加といった課題に向き合い「令和6年度ひょうごSDGsワーケーション・スタート推進事業」を進めています。

この事業では、兵庫県内への移住や二拠点居住、ワーケーションなど、柔軟な働き方を後押ししながら、交流人口を増やすことを目指しています。

その流れの中で、2024年11月に丹波市、2025年1月に洲本市でモニターツアーを実施。

関西地方を中心に全国から参加者が集まり、地元で活動する方々と交流しながら、都市部と地域をつなぐアイデアや、地域資源を活かした事業の可能性などを話し合いました。

今回は、2025年3月6日(木)に開催したイベント「地域と私の未来会議〜兵庫の可能性を考える〜」の様子をご紹介します。

▼モニターツアーのレポートはこちら

まちを知り、まちに関わる。新たな一歩を見つける場

本イベントは、地域の魅力や課題に触れながら、自分なりの「兵庫との関わり」を見つけることを目的として開催しました。

当日は、大阪梅田にあるさくらインターネットが運営するオープンイノベーション施設「Blooming Camp」会場と、オンライン合わせて約40名が参加。

イベントは、梅田のBlooming Camp会場とオンラインのハイブリットで開催

関係づくりの入口として、モニターツアーで訪れた洲本市と丹波市から、株式会社シマトワークスの富田祐介さん、Keny Design Officeの清水健矢さんをゲストにお迎えしました。

「まちの課題に対して、どんなアイデアが生かせるだろう?」という問いを出発点に、具体的なアクションや今後の取り組みについて、参加者と共に考えを深めました。

ここからは、イベントの様子をダイジェスト形式でお届けします。

兵庫の未来を一緒に考える「わくわくの時間」

会場には、フリーランスのライターやエンジニア、食や観光に関わる人、働く場をつくる人など、さまざまな人が集まりました。

モニターツアーに参加した人同士が、「あのときの料理、本当に美味しかったですね!」と盛り上がったり、初対面同士でも「どんなお仕事をされているんですか?」と自然に会話が広がります。

イベントのスタートは、兵庫県企画部計画課の諸岡さんによるご挨拶から。

諸岡 今日をきっかけに、兵庫のことをもっと好きになって、どう関わるかを考えてもらえたら嬉しいです。みなさんと一緒にわくわくした気持ちで、兵庫の未来について考えていきたいと思います。

続いて、テーブルごとに自己紹介タイムへ。時間がオーバーするほど、盛り上がっていたテーブルもありました。

アイスブレイクを経て最初の緊張感も和らぎ、みなさんも少し打ち解けられた様子。

司会の花田が「洲本市と丹波市の知ってる度」をたずねると、「これから知っていきたい!」という声が多く、関心の高さが伝わってきます。

島の真ん中で未来を切り拓く。洲本市のインプットトーク

ここからは洲本市・丹波市のインプットトーク。まずは洲本市で活動する、株式会社シマトワークス(以下「シマトワークス」)の富田さんのお話です。

富田さんが淡路島と関わるようになったのは2005年。大学卒業後、フリーランスの仕事を通じて縁が生まれ、2012年に移住。島を拠点に企画や事業を立ち上げ、シマトワークスを設立しました。

富田 祐介(とみた・ゆうすけ/兵庫県洲本市)株式会社シマトワークス代表取締役。神戸市出身。建築設計からキャリアをスタートし、淡路島へ移住後、2014年に「株式会社シマトワークス」を設立。「わくわくする明日をこの島から」をコンセプトに、観光・食・人材育成に関する企画提案を行う。2016年からはPR事業「島&都市デュアル」の編集長や、日建ハウジングシステム主催のLid研究所の外部研究員なども務める。

富田 いつも、わくわくする道しか選べないんです(笑)。シマトワークスも「わくわくする明日をこの島から」をコンセプトに活動しています。移住した当初は、島で企画の仕事なんてほとんどありませんでしたから、観光、食、インバウンド、人材育成など、とにかくやれることを広げていって、気がつけば今に至る、という感じです。

ここで、富田さんの活動拠点・洲本市の特徴についても話が広がります。

富田 淡路島には3つの市があるのですが、洲本市はちょうど真ん中に位置しています。大阪湾側の城下町は、古い商店街や工場跡が残る、島では比較的大きなまち。瀬戸内海側は夕日の名所で、内陸の先山山系ではおいしいお米が作られています。

市の中心部には、ビーチやレトロな小路、再生された公民館施設など、1km四方に魅力が詰まっていて楽しみ方もいろいろです。

富田 洲本には「はしご酒」の文化があって、それを楽しんでもらうツアーも企画しています。

モニターツアーでも、富田さんのアテンドではしご酒文化を体験

自身のインスタグラムで「#洲本のみ歩き」を発信し、訪れる人におすすめの店を紹介。「洲本にはたくさんの飲食店があり、どこに入るか迷うほど。特に地元の鰆や淡路ビーフを使ったメニューはぜひ味わってほしい」と話します。

富田さんのインスタグラム

そんな洲本市にも課題はあります。特に「若者の流出」が大きな問題です。

富田 島に大学がないため、若者は一度外へ出ると戻ってこないことが多いんです。

淡路市や南あわじ市では移住者や観光施設の盛り上がりが見られるものの、洲本市は活気を失いつつあるといいます。

富田 昔は「洲本が一番」と誇っていた地元の人も、今は嘆いている。それがなんとも切ないんですよね。僕たちもまちを盛り上げようと、試行錯誤しながら動いています。たとえば、カネボウの紡績工場跡地をリノベーションした交流拠点「S BRICK」は、地元の人たちと一緒に盛り上げようと、コンペをとって立ち上げました。できることを探しながら、コツコツと挑戦しているところです。

交流拠点「S BRICK」

つながりをデザインする。丹波市のインプットトーク

続いては丹波市から、Keny Design Officeの清水さんのお話です。

「洲本市の話を聞いて、共通点が多いなと感じました」と清水さん。

清水 どちらも近くに知名度のある市があって、「〇〇は知っていても、そこまで知らない」と思われがちですよね。人口規模も似ているけれど、洲本の飲み歩き文化は羨ましいです。丹波は車がないと生活できないまちなので。

清水 健矢(しみず・けんや/丹波市)Keny Design Office 代表。大阪府出身。丹波市移住6年目。「地域のつながりをデザインする。」をコンセプトに、ソーシャルデザイン事業を展開。コミュニティコーヒースタンドの運営や、起業促進型の古民家コワーキングスペースの企画・経営を手がけるほか、地域イベントの企画開催、丹波市観光サイトの運営、地域企業のPRマーケティング・デザイン支援など、幅広い分野で活動している。趣味は旅行で、これまでに訪れた国は30カ国以上。日々の暮らしでは「毎日同じ服を着る」スタイルを貫いている。

清水 丹波市は、大阪駅から車で約1時間半とアクセスが良く、豊かな自然に囲まれた地域です。人口密度は大阪市の1/10くらい。家賃も安く、新築2LDKが7万〜7.6万円ほどで借りられます。

清水さんは、丹波の魅力を発信するWEBサイトの運営や、スペシャルティコーヒー専門店「水分れ茶屋 by Amhara Coffee Stand.」の開業など、地域の魅力を伝える活動に取り組んでいます。

Tamba Style (丹波市観光ポータルサイト)(写真提供:Keny Design Office)

清水 サイトでは、お店を営む人の想いや移住の経緯など、地域で暮らす人たちのストーリーを大切に伝えています。場づくりのチャレンジとしてはマルシェも企画し、「この人に出してほしい」と思うお店に声をかけて、4年間で10回ほど開催しました。

プロデュース・企画開催した「みわかれマルシェ」のポスター(写真提供:Keny Design Office)

こうした活動がきっかけで、丹波を訪れる人が少しずつ増えてきているとのこと。

清水 23年にオープンしたしたコワーキングスペース「Tamba Creative HUB」は、ワーケーションの場としても活用され、バーベキューやダーツ、サウナなど、気軽に楽しめる空間になっています。

清水さんが運営するTamba Creative HUB

まちに新たな流れが生まれている一方で、まだまだ課題もあるそうです。

清水 地方はどこも似た課題を抱えています。若者が出ていき、空き家が増え、地域経済も縮小している。関係人口もまだまだ少ないです。

それでも、丹波には強みがあるといいます。地域の人が集まりやすい場が多く、空き家や土地も手に入れやすい。都市部からのアクセスも良く、自然や食の魅力も豊かです。

清水 「課題解決」ってつい構えてしまうけど、まずは関わることが大事だと思っていて。遊びに来る、イベントに参加する、SNSでつながる。そうした積み重ねが結果的に課題解決につながっている、くらいの気持ちでいいと思うんです。僕も毎月「協創会議」を開いています。オンライン参加もOKなので、まずは丹波とつながってもらえたら嬉しいです。

インプットトークを聞いた参加者からは「淡路市には行ったことがあったけど、洲本市は通り過ぎていた。でも、人を知るとまちに興味が湧いて、行ってみたくなる」といった声や、「清水さんの「課題解決と肩肘張らず、まずは自分主体で地域に関わろう」という話が印象的でした」という感想がありました。

アイデアセッションで見えた新たな地域の可能性

インプットトーク終了後は、参加者のみなさんと一緒に「地域の課題をどう解決できるか?」をテーマに、アイデアセッションを行いました。

まず、洲本市と丹波市で各3つのグループに分かれて、それぞれ自分のアイデアややりたいことをシートに書き出します。

その中で「実現できたらわくわくする!」と思うアイデアをまとめていきます。各グループごとに色々なアイデアや意見が出ていたようです。

セッション終了後に、各グループにアイデアを発表いただきました。

丹波市のグループからは「星空の美しさを活かしたイベントや宿泊施設があれば、観光客や移住希望者を引き寄せ、新しい流れが生み出せそう」というアイデアが。

また、丹波の魅力として「人の温かさ」を挙げ、「最初は焚き火を囲んで一杯やることから地域につながるきっかけになれば」という意見も。

さらに、地域でやりたいこととして、ドローン撮影や、農地のシェアオーナー制の導入、古墳ツアーなどユニークな意見が次々と出ました。

洲本市グループは、「地域の魅力を感じるには『地元のディープな人たち』とのつながりが大事」という意見がありました。「会いに行くようなイベントをきっかけに交流が生まれ、まちへの愛着が湧く」という考えです。

「本州に帰さなければいいじゃないか!」という発想から、はしご酒文化で夜の観光ニーズを満たすことで、訪れた人々が帰れなくなる仕掛けを作ろうという話も。

さらには、淡路島全体を舞台にした脱出ゲームのアイデアまで!淡路の食や温泉を楽しみながら、島からの脱出を目指す、そんな新しい観光体験が生まれる日も、そう遠くないかもしれません。

オンライン参加のグループからは「どちらの地域も、抱えている課題の根っこは似ているのでは」という気づきが共有されました。

そこから「大学がないことで若者が地域を離れてしまうなら、進学しない人が集まれる場や仕組みをつくれないか」という意見や、「地域そのものを“クエスト”に見立てて、大学生がチャレンジするRPG的なコンテンツにしてみては」といったアイデアが。

さらに「丹波や淡路に限らず、地域の未来を動かすには『誰がハブになるか』がカギになる」という声も印象的でした。

一歩踏み出す!地域でできることを始める行動宣言

あっという間に時間が過ぎ、楽しかった時間も終わりが見えてきました。

最後に、洲本市と丹波市で、「まず自分ができること」を発表する「行動宣言!」を行いました。

富田さん、清水さんからも「今日出会ったみなさんと『洲本のみツアー』を実施する!」「富田さんに2ヶ月以内に会いにいきます!」といった宣言が。

参加者からも、たくさんの力強い宣言が飛び出しました。

  • 友達を連れて再訪し、地域の魅力を一緒に楽しむ!
  • 自分が感じたまちの魅力をSNSやブログで発信する!
  • ゲストハウスやカフェを作るプロジェクトに参加する!
  • ワーケーションで地域とのつながりを深める!
  • まちの内外から人が集まって交流できるような、ワークショップを開催する!

中には「さっそくコワーキングスペースのSNSをフォローしました!」という行動報告宣言も。一人ひとりが具体的な行動を宣言することで、まちとの関わりをさらに深める時間となりました。

小さな一歩が、まちの未来を動かす

地域との関わりをはじめる上で大切なのは、特別な覚悟や明確な目標ではなく、肩の力を抜いて踏み出す小さな一歩かもしれません。今回のイベントでも、参加者のみなさんから「知る」ことから「行動したい」へと、気持ちが変わっていく様子が多くみられました。

「いつかやってみたい」を「今、少し動いてみる」に。このイベントとレポートが、まちとのつながりを広げる第一歩となれば嬉しく思います。

■ライター名
荒木祐美(あらき・ゆみ/京都府京都市)

■所属
フリーランス

■プロフィール
京都市左京区出身。暮らしや観光をデザインの視点で紹介するライフスタイルショップの運営、共創型シェアードオフィスでのコミュニティマネージャーを経て、一昨年、約10年ぶりに東京から京都へUターン。現在は、地元やローカル領域で、バックグラウンドを活かしながら、多様な暮らし方や働き方の選択をサポートする活動を行っている。 京都では、「京都移住計画」を運営する株式会社ツナグムとともに、QUESTIONのコアパートナーとして、つながりを生み出す場づくりやプロジェクトに取り組んでいる。