行きたい場所には「会いたい人」がいる【ワーケーションDays in 福島県・川内村】

「二度目」がある地域って、なんだろう?

一度訪れて「良いまちだったな」で終わる地域もあれば、また行きたくなる地域もある。

福島県川内村で開催された初のワーケーションは、参加者たちから「また来たい」「次はいつ行こうかな」といった声の上がる、“人と人との関係”がたくさん生まれたプログラムでした。

キーワードは「もう一度訪れたい地域」。

ふと帰りたくなる、そしてまた立ち寄りたくなるような、地域と仲良くなれた3日間。

そんな川内村でのワーケーションの様子をお届けします。

ワーケーションDays in 福島県・川内村 ~ようこそ、新たなチャレンジが生まれる村へ~

モリアオガエルの楽園、福島県川内村

「モリアオガエル」と呼ばれる、不思議な生態を持つ蛙がいます。

一般的に蛙は水中で産卵をしますが、モリアオガエルは産卵期になると水辺の小枝に泡状に包まれた卵を生みます。

そこからオタマジャクシが孵化し、水中へと落下。水辺で過ごし、成体へと成長した後、産卵期になるとまた水辺の小枝に帰り、産卵をして新たな命を育むのです。

福島県川内村。総人口2246人(2024年11月時点)の自然豊かな村にある平伏沼は、そんなモリアオガエルの繁殖地として知られ、国の天然記念物にも指定されています。

東日本大震災では、全村避難を余儀なくされ、多くの人が故郷の住処を離れて村外へと避難することになりました。

その後時が経ち、現在は約83%の村民が村に帰り生活を営んでいます。

震災以降、「おかえり」と「みんなでむ“かえる”かわうち」を目指して、村一丸となって取り組んできた10余年。

一度離れても帰りたくなる、そして、また訪れたくなる村。

それが福島県川内村です。

ワーケーションプログラムの詳細

近年、地元産のぶどうによるワイン開発や、古民家カフェやクラフトジン蒸留施設のオープンなど、目覚ましい成長を見せる川内村。各所で若いプレイヤーも多く誕生し、彼ら彼女らの活躍にも注目が集まってきています。

今後は村内の資源だけでなく、外部資源を活かした豊かな協働・共創を目指しており、この度初のワーケーションプログラムに挑戦することに。村の外側の関係人口・交流人口は今後の地域振興に欠かせず、滞在を通してそれぞれの知見や魅力を共有・交換し、化学変化のようなものが生まれることを期待して設計されました。

・イベント詳細

ワーケーションDays in 福島県・川内村の様子

プログラムには全国各地からワーケターが集結。お気に入りの場所で仕事に取り組んだり、村の自然を堪能したり、地域の名所を観光したり、地域食材を用いた料理に舌鼓を打ったりと、3日に渡って各々が思い思いに過ごしました。本稿では現場のリアルな様子を、村のあたたかさとともにお伝えします。

ワーケーション施設の紹介

ワーケーションDays in 福島県・川内村にて利用した、ワーケーションにピッタリな魅力的なスポットの数々を、実際の様子と合わせてご紹介します。

・初めましてはお茶とともに【Café Amazon】

村内有数のおしゃれカフェで、タイのコーヒーチェーン1号店でもある「Café Amazon」。広々とした店内はぬくもりを感じる木材で統一されたデザイン。天井を覆う梁にからはあたたかな照明が灯り、陽光と相まってやわらかく降り注いでいます。随所に設置された緑の観葉植物が空間を上品に演出していました。

飲食メニューが充実しており、朝、昼、夕方と、どのタイミングでも美味しい料理がいただけます。


ワーケーションプログラムでは初日の集合場所となっており、川内村で最初に訪れた場所です。各自が自身の仕事に取り組みつつ、「初めまして!」と挨拶を交わしながら名刺交換を行っていました。

プログラムの開会に際して、川内村の村長である遠藤 雄幸氏から挨拶。川内村の紹介とワーケーションへの期待感をお話しされた後、参加者一人ひとりが自己紹介を行いました。

すでにアイスブレイクが必要ないくらいに場があたたまっており、料理を楽しみながらお互いの話に耳を傾ける様子が見られました。

【Café Amazon】
住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村大字上川内字町分102
HP:https://cafe-amazon.jp/ 
SNS:https://www.instagram.com/cafe_amazon_japan/ 

・川内村の大自然をたっぷり堪能【いわなの郷】


閑静な山間の中にある「いわなの郷」。イワナ釣りが楽しめる釣り堀やレストラン、体験交流館、宿泊可能なコテージにキャンプサイトなど、ワーケーションの拠点として嬉しい機能が揃った複合施設です。どこでも仕事ができるように、屋外Wi-Fiが整備されているのも嬉しいポイント。


近隣は車通りが少ないため雑音がなく、「本当に自然の音しか聴こえない」と驚くワーケターも。また、都心や市街地と異なり広告や掲示物がほとんど無いため、目に入ってくる情報量が少なく、頭のメモリがクリーンになる体験ができました。

コテージは一棟貸しで5棟あり、5~10人で利用が可能です。1階はリビング、2階は寝室となっており、ワーケーション中はリビングでお酒を片手に夜遅くまでお仕事される方の姿も見られました。

【いわなの郷】

住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村上川内炭焼場516
HP:http://www.abukumakawauchi.com/ 
SNS:https://www.instagram.com/iwananosatokawauchi/ 


・深緑に抱かれた静ひつな庵【天山文庫】

明治期に活躍した詩人、草野心平の別荘である「天山文庫」。丸みのあるフォルムと茅葺きが特徴の建物は深緑の中に静かに佇んでおり、中には詩人、作家、出版社等の善意の寄附による蔵書がぎっしりと並んでいます。たとえ本好きでなくとも、古の知の宝庫である書架や静ひつな空間には心が震えます。

天山文庫を案内してくださったのは管理人の志賀 風夏さん。建物が建てられたきっかけについて、美しい自然や書物、建築の随所に宿る歴史を一つひとつ紐解きながら、ていねいに解説してくださいました。

「天山文庫は、名誉村民となった草野心平先生が行なった村への蔵書の寄贈や文化的貢献に対するお礼として建設されました。いわき市出身の先生は、モリアオガエルに惹かれたことを契機に度々川内村へ来村するようになり、村民や文化人と交流を深めたそうです。天山文庫には当時の様子がうかがえるものが数多く残っていますので、ぜひご覧になってください」。

普段はワークスペースとしての開放はしていませんが、入館料を支払えば見学・利用することができます。

【天山文庫】

住所:〒988-0388 福島県川内村上川内早渡513
HP:http://www.kawauchimura.jp/page/page000108.html 
SNS:https://x.com/tenzanbunko0716 

・全国的にも珍しい、校内テレワーク施設【川内小中学園(コミュニティハウスにじいろ)】

2021年4月に新設された義務教育学校「川内小中学園」。地域と共に歩むコミュニティスクールを目指し、「コミュニティハウスにじいろ」として教室の一部を開放しています。普段は児童生徒だけでなく、村の人々が文化活動や地域活動、パソコン教室、ピアノ教室などで利活用しています。

設置の背景には、地域に開かれた学校として村民一丸となって子どもたちの成長を見守ろうとする思いがあるそう。村民以外の方でも自由に利用ができ、フリードリンクにWi-Fi完備、土日祝も利用可能など、使いやすさも抜群。身近に元気な子どもたちのエネルギーを感じながら進める仕事は順調に進み、知らず知らず手が弾むようにキーボードを叩いていました。

【川内小中学園】
住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村上川内沼畑125
HP:https://schit.net/kawauchi/kawauchi-c/
SNS:なし


・旅と仕事の疲れを癒す、憩いのひととき【かわうちの湯】

八角形の斬新なデザインが特徴の「かわうちの湯」。アルカリ度が高く、肌がツルツルになることから『美人の湯』として知られています。施設内には泡風呂、ジェットバス、岩塩サウナ、寝湯などがあり、ゆったりとくつろげます。

90畳の大広間は何時間でも無料で使用でき、8畳の個室は4時間3,500円で利用可能。ワーケターの一行は、長旅で疲れた心身を癒し、リラックスした状態で仕事に取り組んでいました。

【かわうちの湯】
住所:〒979-1201 福島県双葉郡 川内村上川内字小山平501
HP:http://www.abukumakawauchi.com/contents/kawauchi/intro/ 
SNS:https://www.instagram.com/kawauchinoyu/ 

・五感で味わい振り返る、川内村の3日間【秋風舎】

長閑な里山風景に調和する、築約200年の古民家を改修したコミュニティカフェ「秋風舎」。オーナー店主は「天山文庫」を案内してくださった志賀 風夏さん。陶芸家である父が30年ほど前にリニューアルし、2023年にオープンしました。志賀さんご自身も大学で陶芸を学んでいた一面を持ち、使用されている食器や家具はあたたかみを感じる手作りのものばかりです。

福島県産の素材をふんだんに使ったメニューは、季節に合わせて移り変わり、訪れるたびに異なる表情と味わいを楽しむことができます。

店内は採光が良く、やわらかな陽光に包まれています。ワーケターたちはそれぞれお気に入りの場所を見つけ、食事を楽しみつつ思い思いに仕事に取り組んでいました。

最終日のプログラムで訪れた秋風舎では「川内村を知るワークショップ」と題し、ワーケーションの振り返りが行われました。講師は目黒 景子さん。デンマーク発祥の成人教育であり、対話を通した個人の真の自己実現を目指す「フォルケホイスコーレ」の哲学にならい、内省と対話を軸としたワークショップが展開されました。

川内村の自然と自身の心に耳を傾けながら、自分の価値観を問い直し、他者との対話を通じて対照化。プログラムを通し、より自分自身と3日間のワーケーション体験に深みと厚みが増したように思います。

【秋風舎】
住所:〒979-1202 福島県双葉郡川内村下川内 字牛淵509
HP:なし
SNS:https://www.instagram.com/syu_fu_sya 

川内村のおすすめスポット

・野性を取り戻し、生きる力を育む農園【あきもと農園】

ワーケーションDays in 福島県・川内村の最初のプログラムである、「川内村を知るワークショップ」が行われた「あきもと農園」。秋元 通さん、一子さんご夫妻が営んでおり、当日はワーケターたちをあたたかく迎え入れてくださりました。社会教育施設としての一面も持っており、野外活動や自然体験活動のフィールドとしても活用されています。

ワークショップでは、川内村の自然を知るプログラムを実施。普段視覚を中心に生活している我々ですが、ワークショップでは聴覚や嗅覚、触覚、味覚といった五感を全て使って自然を体感します。耳を澄ませて鳥の声を聴いたり、土の匂いを嗅いだり、きのこのふわふわした感触を指で感じたり……。いつもとは異なる世界の感じ方をすることで、動物としての「野性」が呼び起こされる感じがしました。

通さんは、「野遊びは娯楽としてのレジャーだと思われがちだが、生きていくために必要な力を磨いてくれる。食べられるものとそうでないものを見分け、安全と危険を察知し、自然の中でサバイブしていく能力は自然でこそ磨かれる」と説明。単に動植物の知識をつけるだけに留まらず、「生きる」「食べる」について真剣に考えられたワークショップでした。

【あきもと農園】
住所:福島県双葉郡川内村大字下川内字糠塚66-2
HP:https://poke-m.com/producers/304130 
SNS:なし

・川内村の新進気鋭の若者が集う蒸留所【naturadistill 川内村蒸溜所】

冒頭でご紹介した通り、川内村では新たな事業に取り組む若者が少しずつ増えてきています。自然の魅力を詰め込んだクラフトジンを製造する蒸留所、「naturadistill 川内村蒸溜所」を運営する株式会社Kokage代表取締役の大島 草太さんもその一人。土地の持つ独特の香りに魅了され、2023年に同プロジェクトのクラウドファンディングをスタート。支援者数380人、総額600万円以上が集まり、香りで福島と世界をつなぐ蒸留酒計画が動き出しました。

「来月に『naturadistill 固有種蒸溜酒』の発売を控え、現在大詰めといった状況です。1Fは蒸留所とショップ、2Fはレストラン&バーとして開店する予定にしておりますので、ぜひ楽しみにしていてください」と大草さん。同蒸留所初となる蒸留酒「naturadistill 固有種蒸溜酒」は、日本の固有植物であるかやの実、橘、クロモジ、ニオイコブシを使用した、日本独自の自然の香りを追求。

当日はまだ商品ができあがっておらず、実際に「naturadistill」をいただくことはできませんでしたが、これから生まれようとしている新たな事業にワーケターたちは興味津々でした。

※『naturadistill 固有種蒸溜酒』は2024年11月に無事発売となりました。詳細は「naturadistill 川内村蒸溜所」HPからか、ふるさと納税サイト「さとふる」よりご確認いただけます。

・naturadistill 固有種蒸溜酒(さとふる)
https://www.satofull.jp/products/detail.php?product_id=1576989

【naturadistill 川内村蒸溜所】
住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村上川内町分396−2
HP:https://naturadistill.com/ 
SNS:https://www.instagram.com/naturadistill/ 

・眼下に広がる一面の葡萄畑【かわうちワイナリー】

ワーケーション最終日の朝。車で揺られながら到着したのは、標高約750mの阿武隈高地の中央に位置する「かわうちワイナリー」。眼下には約4.5haの広大な葡萄畑が広がり、たわわに実った果実が朝の陽光を受けてきらきらと輝いていました。

現地を案内してくださったのは、かわうちワイン株式会社統括マネージャーの遠藤 一美さん。ワイナリーで栽培している葡萄や製造しているワインについて、実物を紹介しながらお話しいただきました。

「かわうちワイナリーでは、シャルドネやメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンをはじめ、白赤含め約30品種の葡萄を栽培しており、15,500本ほどの木が植えられています。年間2万本のワインを販売していて、今年の日本ワインコンクールでは欧州系赤品種部門で銅賞をいただきました」。

ワインづくりにおいて一番大事なのが、原料である葡萄。「ワインの品質の9割以上は葡萄で決まる」と言われるほど、味を大きく左右するとされています。

当日は実際に葡萄畑へ足を運び、みんなで収穫を体験。デスクワークが多いワーケターたちにとっては新鮮で、それぞれがイキイキとした表情で取り組んでいました。

収穫体験の後は場所を移して工場へ。こちらではボトルのラベル貼りの様子を見学したり、栓の蝋封を体験したりと、オリジナルのワインボトルづくりを楽しみました。特に栓の蝋封体験は大いに盛り上がり、蝋が固まる前に少し垂らして、オシャレな仕上がりになるよう工夫を凝らしました。

体験の後はお待ちかねの試飲タイム。遠藤さんの解説を聞きながら、さまざまな品種のワインを飲み比べ、お気に入りのワインをお土産として購入しました。

【かわうちワイナリー】
住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村大字上川内字大平2番地の1
HP:https://kawauchi-wine.com/
SNS:https://www.instagram.com/kawauchi_winery/ 

ワーケーションフォーラム~新たに動く、福島県の山間部・川内村のこれからを考える~

ワーケーションプログラムの2日目。いわなの郷にてワーケーションフォーラムが開催されました。川内村の役場職員や村民、ワーケターたちが一堂に会し、川内村とワーケーションについて考えた2時間半。村にとっては初のワーケーションへの挑戦でしたが、村民やワーケターはどのように感じているのでしょうか。

今を乗り越え、その先へ【川内村長:遠藤 雄幸氏】

冒頭、川内村長の遠藤 雄幸氏から開会の挨拶があり、「今を乗り越え、その先へ」と題した、村の現状と新たな取り組みについて紹介がされました。

「震災後、川内村では復興に向けて生活環境の回復やインフラ整備が進んだものの、限界集落化がより現実的になりました。人口減少に超少子高齢化、子どもや若い子育て世代の帰村が進まないなどの問題は依然として残っており、復興は未だ途上にあります。今後はより未来志向の『創生』に向けて取り組んでいきたいと考えております」。

企業誘致や新産業の創出、生活環境の整備や移住定住支援制度の拡充などを進めてきた川内村。今回のワーケーションはそうした「新たな村づくり」の一環で挑んだと話します。

「ワーケーションを通じて、川内村の魅力である自然・文化・歴史・人に触れていただき、観光促進や経済活性化へと繋げていくべく村づくりを行っています。来秋には新たにワーケーション拠点を立ち上げる予定で、より多くのワーケターの皆さんに足を運んでいただけることを期待しています」。

鍵を握るのは地域のマグネット人材【一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問:箕浦 龍一氏】

続いてマイクを握ったのは、一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問の箕浦 龍一氏。ワーケーションの最新動向と大事な部分について、実例を交えながらていねいに説明されました。

「観光産業は一般的に経済効果の高い『裾野の広い産業』だと言われていますが、かつての昭和型観光でにぎわった多くの観光地では、廃虚が増えている地域も多々あります。首都圏から近く、インバウンドにも人気のある日本有数の観光地を抱える地域も、近年は消滅可能性都市にノミネートされている状況です」。

ワーケーションに限らず、地域が外部からの誘客によって持続可能な発展を目指すには、従来型の観光戦略の大幅な見直しが必要だと訴える箕浦氏。鍵となるのは、反復・継続し、「定期的」に訪れてくれるコアなファンを増やしていくことだと話します。

「外からの訪問者が惹きつけられ、リピートにつながるのは、地域の『人』の繋がりにほかなりません。そのため、コンテンツとしては『地域の人と訪問者との交流』が圧倒的に重要な要素になります。従来は訪問客数や宿泊客数、観光消費額といった数が指標にされてきましたが、今後は量よりも関係性の質の方が大事。訪問客と地域住民の交流件数や、訪問客のリピート率などを高めるためにも、接着剤となる地域人材(マグネット人材)を発掘し、地域として育て、支援していく必要があるでしょう」。

消費の関係じゃない、地域への負担が少ないワーケーション【一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ:今井 美香氏】

立場は変わり、次に登壇されたのは一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュの今井 美香氏。これまでに数多くの地域を訪れ、ワーケーションに取り組んできた女史からは、ワーケターの目線から見た地域についてお話しがされました。

「私が山間部のワーケーションに参加する理由は、情報が少ない環境で作業効率を上げたい、考えに集中したいといった理由はもちろん、秘境駅や温泉など、気になる場所へ足を運んでみたい思いから。また、ワーケーションに組み込まれているプログラムの魅力もそうですし、箕浦さんのお話にもありました『会いたい人がいる』のも大きな理由になっています」。

ワーケーション先で繋がった人々とは、お互いの近況を気にかけ合う仲になったと語る女史。「HAPPYなワーケーションはHAPPYな人間関係が続き、結果リピーターが増える」と話します。また、観光についても多くの地域を訪れてきた女史ならではの考え方を紹介。

「観光に関しては、日常こそが最高の観光資源だと思っています。現地の人にとっては日常であっても、外の人間からすると刺激的な非日常です。山間部ワーケーションの一番の魅力は、そんなありのままの暮らしにお邪魔できること。普段の暮らしに対して興味を持ち、リスペクトする姿勢を忘れなければ、受け入れ側への負担を下げることができます。観光客が増えすぎて、地域住民の生活がままならなくなっている地域もありますが、両者にとってより良い関係を築いていくためにも、『いつもの風景』を楽しむスタンスを大事にしたいです」。

川内村の新進気鋭の若手プレイヤーたち【只野 福太郎氏、大島 草太氏、志賀 風夏氏】

続いては、川内村を含む福島県の新進気鋭の若手プレイヤーたちが登場。最初に口火を切ったのは、株式会社小高パイオニアヴィレッジの只野 福太郎さん。人と人とのご縁をつなぐことで、地域に新たな価値や文化を創出する『コミュニティマネージャー』という仕事をされています。

「人のご縁をつなぐ仕掛けは様々あり、楽しいパーティから真面目なビジネスの交流まで、必要に応じて使い分けています。中でも特に意識しているのは『遊び』の部分。楽しさが入口だと、間口が広く多くの人を集めることができる。そこで生まれた『カオス』から、新しい価値が生まれたり文化が育まれたりといった可能性が広がると考えています」。

満月の夜に浜辺で相撲をとる「満月相撲」をはじめ、楽しさを入口とした多くのコンテンツを生んできた只野さん。仕事を通し、福島県には地域外の人たちを受け入れる「関わりしろ」の豊かさがあると感じてきました。

「このエリアの人々は、よそ者に対してとてもフレンドリーなんですよね。それは一度地域を離れ、外の経験をした方が多いからだと思います。震災を経験してバラバラになった地域社会では、色んなしがらみや古い慣習などがありません。『ゼロから新しいものをつくる』がやりやすいんです。ゼロベースになったことを逆にポジティブに捉え、新しいことを生み出しやすい地域だと考えてもらえると嬉しいです」。

続いて登壇したお二人は、株式会社Kokage代表取締役の大島 草太さんと、コミュニティカフェ「秋風舎」オーナー店主の志賀 風夏さん。別章で詳しくご紹介しているので本章では取り上げませんが、それぞれの取り組みについて熱を込めてご紹介されていました

新たに動く、福島県の山間部・川内村でのワーケーションのこれからを考える【パネルディスカッション】

ここで一旦休憩を挟んだのち、プログラムはパネルディスカッションへ。「新たに動く、福島県の山間部・川内村でのワーケーションのこれからを考える」と題し、先ほど登壇した4名がそれぞれ意見を交わしました。

ファシリテーターを務めたのは、日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュの義達 祐未さん。本題に切り込む前に、初めて川内村を訪れた箕浦さんと今井さんの両名に質問を投げかけ、村の自然や歴史といった感動した部分を引き出して場をつくりました。

その後、それぞれの講演内容について意見を交換。大島さんは、箕浦さんの講演を聞いて「数ではなく質、つまりコアなファンをどれだけ獲得できるかが大事だという話に感銘を受けました。ワーケーションを通してファンが増え、『わざわざ』訪れてくれるような尖ったコンテンツをつくっていきたいです」と感想を述べました。

また、志賀さんは「ワーケターの皆さんはさまざまな仕事をされており、一言で言えないところが面白いなと感じました。まだ名前のついていない新しい仕事をされている方もいると思うので、そこが川内村の余白と良い形でつながると嬉しいです」と、ワーケーションがもたらす可能性への期待を語りました。

「川内村での『親子ワーケーション』はいかがでしょうか」との問いには、実際にお子さんとのワーケーション経験がある今井さんが回答。今回のプログラムで訪れた川内小中学園に触れながら、「地元の子どもたちと自分の子どもが関わることで、どのような化学変化が起こるのかを見てみたい」と話しました。大人だけではなく、子どもたちにとっても学びや気づきのあるプログラムがあれば、ワーケーションの幅はもっと広がるかもしれません。

ディスカッションの最後、「子どもと違い、大人になると新しい『友達』がつくりにくい」と切り出した箕浦さん。「今回のワーケーションでは面白い人たちにたくさん出会えたので、また来たいと思えるような関係がしっかり出来上がったと思う」と話し、関係人口について自身の考えを述べました。

「関係人口というと、漠然と人と地域の関係と捉えがちですが、人は人としかつながらないんです。どれだけ地域資源を見せても、そこに強い関係性は生まれない。地域で暮らす人たちと関わる体験こそが、地域外の人たちにとっての魅力であり、また訪れたいと思う誘因になると思います」。

長く講演が続いたフォーラムですが、会場の参加者たちは終始真剣に話に耳を傾けており、手元のメモにペンを走らせる参加者の姿も見られました。この機会からより多くを学び、得ようとする前向きな姿勢がとても印象に残っています。

ワーケーションフォーラムの最後は、参加者同士の学びや気づき、そして感想の共有で締めくくられました。話題は尽きず、閉会時間ギリギリまで歓談を楽しむ様子が見られました。

もう一度、会いに行きたくなる地域へ

観光、交流、そして学びと気づきの体験が詰まった福島県・川内村での3日間。ワーケーションの参加者を対象にしたアンケートでは、川内村の豊かな自然への感動や村民の方々との楽しい交流などを中心に、ポジティブな声が多く聞かれました。

一方、課題としては「ワークタイムをもっと確保したかった」といった声も。参加者の中には、「ワーケーションではまとまった時間を取るのが難しく、仕事の効率やスケジュールを考える訓練になる」と話す方もいらっしゃり、あえてそうした環境に身を置いてみるのは一つの訓練になるかもしれません。

また、「日数が足りなかった」「もっと滞在したかった」といった言葉からは、箕浦さんのお話しにあった「人と人との関係」が築かれている様子がうかがえました。

行きたい場所には、会いたい人がいる。

たった一度のワーケーションで終わらず、またふと帰りたくなるような、そして会いに行きたくなるような関係が築けた川内村でのワーケーション。

それぞれが「また来ますね!」と、二度目の約束を交わし合って帰路につきました。

(写真・文:中野 広夢)