
南には神戸や姫路といった中核都市や淡路島、そして北には日本海に面した城崎温泉などの有名観光地がある兵庫県。
今回、ワーケーションの舞台となったのは兵庫県の中央東部に位置する丹波市です。同市は、豊かな自然環境と独特の気候風土に恵まれ、多彩な特産品が存在します。
特に「丹波黒大豆」「丹波大納言小豆」「丹波栗」は「丹波三宝」と称され、全国的にも高い評価を受けています。
一方で、現在の高齢化率は35%を超えており、さらに生産年齢人口は減少を続けているという課題もあります。
京都・大阪、神戸からJRで2時間以内、車で1時間30分以内とアクセスは良好で、自然を感じながらワーケーションをする場所として注目が集まりつつあります。
今回は、2024年11月27日から29日で行われた兵庫県丹波市でのワーケーションの様子をレポートします。
丹波の「食」を通して地域と関わる1日目
今回のワーケーションのテーマは「森とローカルの越境学習」。
地域で活躍するプレイヤーの方たちとの交流や活動を通して、ローカルでの新しい事業のヒントや種が得られるチャンスを作ることを目的としています。
今回は関東、関西、四国など各地から4名の参加者が来ていただきました。早速、今回2泊3日の夕食と滞在でお世話になる「yogaのおうちLOKATE」さんにチェックイン。
<施設情報>
yogaのおうちLOKATE
住所:兵庫県丹波市青垣町山垣1761
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今回アテンドをしていただく清水さんから、丹波エリアの概要や3日間のスケジュールについて簡単な説明がありました。
清水さんは大阪府出身でしたが、2019年7月に地域おこし協力隊として丹波市に移住。現在は丹波市のキープレイヤーとして、コワーキングスペースやカフェの運営、地域メディアの立ち上げ・運営、マルシェの企画・運営など、さまざまな活動を行っています。
各自、部屋に荷物をおいたところで、1Fのロビーや2Fの部屋などで各自ワークタイムです。
その後、黒枝豆の摘み取り作業をさせてもらうべく、丹波で農業を営んでいる若竹さんの元へ移動。若竹洋介さんは、2021年に神奈川から丹波に移住。現在は、この丹波・青垣の地で黒豆など野菜を栽培しています。
「皆さんが、普段目にする黒豆は黒枝豆が完熟した後に収穫されたものになります。ブランド化されているが故に検査が厳しく、10%ほどしか市場に流通しません」(若竹さん)
この話を受けて、参加者の方からは「味は美味しいのに見た目が整っていない、小さいなどの理由で弾かれてしまうのは、選別作業を煩雑化させてしまい、ただでさえ加速している農業従事者の労働力不足がより加速してしまうのでは」という気づきも。
ちなみに、突然変異で白い黒枝豆ができることがあるそう。「今後は品種改良で白い黒枝豆を増やし商品化していきたい」と若竹さん。
その後「yogaのおうちLOKATE」へ。すでに用意してくださった食材に加え、摘み取った枝豆を持ち込んで皆で夕食を作ります。
「yogaのおうちLOKATE」には、しいたけの原木があり、特別にしいたけの採取をさせてもらえることに。
先ほど採取した枝豆やしいたけとともに、丹波の食材を贅沢に炭火で焼いていきます。丹波のキープレイヤーである出町さんと植地さん、中川ミミさんが合流し、豪華絢爛な食事とともに交流タイム。
出町さんは奈良県出身で、設計・計画提案競技の1つ「シナリオ丹波」で丹波市長賞を受賞したのをきっかけに、丹波に深く関わるように。2005年に関西大学のサテライトキャンパスである「佐治スタジオ」を開設し、その2年後の2007年に丹波・佐治へ移住。2011年には住民が主体となって空き家再生や活用を考える「佐治倶楽部」を設立しています。
植地さんは、大学時代に青垣で行われた「ワークキャンプ」に参加し、そこで出町さんと出会います。2013年に丹波に移住し、「佐治スタジオ」が10周年を迎える2016年のタイミングで、2代目室長に就任。
中川さんは、国際協力NGOスタッフとして国内外各地で勤務したのち、2015年に東京から丹波市にUターン。地域おこし協力隊の任期中にまちづくり会社「一般社団法人Be」を設立。丹波市への移住定住をサポートする「たんば“移充”テラス」の運営など、移住定住の促進と空き家を活用した地域づくりを行っています。
朝ヨガと丹波の自然でととのう2日目
2日目の朝は、この宿の名前にもなっている朝ヨガ体験を。「yogaのおうちLOKATE」は、丹波に移住された紀さんご夫婦が2022年にオープンさせたお宿です。紀 智子さんはヨガインストラクターの経験をいかし、誰でも気軽にヨガが受けられるようなプログラムやレッスンを提供しています。
デスクワークをしていると、自然と肩や腰に力が入って呼吸が浅くなります。忙しいときは自分の体や心と向き合う時間がないときもあるでしょう。早朝の澄んだ空気を感じながら、ゆっくりと自分の体を動かしていきます。
朝晩冷え込む時期でしたが、体を動かしているうちにポカポカしてきました。普段意識しない部位を動かすのはカロリーを使うもので、終わった頃にはお腹がぺこぺこに。
LOKATE特製の朝食は、一品一品に手が込められており、朝ヨガで動いた体に沁みわたります。
丹波に移り住んでいる紀さんご夫婦とLOKATEで寝食を共にしたことで、「丹波市で生活する実感が湧いた。」「楽しそうな人がいると、住みたくなる。」という声がありました。
心も体も整ったら高源寺へ。高源寺は氷上町の円通寺や山南町の石龕寺とともに「丹波紅葉三山」の1つとして知られている紅葉の名所です。
本堂・方丈に行くまでには長い階段があるので、普段座りっぱなしのデスクワーカーにはほど良い運動になります。
<施設情報>
高源寺
住所:兵庫県丹波市青垣町桧倉514
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軽く運動したあとは、高源寺近くにある「大名草庵(おなざあん)」で昼食。人気店というこということもあり、飛び込みでいくと蕎麦がなくて売り切れのこともあるみたいです。
今回は、アテンドしてくれた清水さんが予約をしてくれたことで、無事お蕎麦にありつけました。
<施設情報>
大名草庵(おなざあん)
住所:丹波市青垣町大名草1003
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その後、清水さんが運営する「Tamba Creative HUB」へ。同施設は清水さんが築100〜150年の古民家を利活用して2023年にオープンした複合施設で、コワーキングスペース、テントサウナ、バーベキュースペースといった設備があります。
コワーキングスペースは、大きな窓から光が差し込んで、とても開放的。カウンター席では、田園風景と山の稜線を眺めながら仕事ができます。
<施設情報>
Tamba Creative HUB
住所:兵庫県丹波市青垣町大名草520
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途中、「荒木本舗」というお菓子屋さんに立ち寄って、15時のおやつを食べながら仕事をしている方も。
<施設情報>
御菓子司 荒木本舗
住所:兵庫県丹波市青垣町小倉891-6
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夕方からは、横山さんと中西さんなど地域プレイヤーの方々も合流し、同施設でバーベキュー(交流会)がスタート。横山さんは新規就農を目指すため、2014年に大阪から丹波市の笛路村に移住。現在は「ふえのみち農園」という屋号で有機野菜を育てています。
横山さんの畑でとれた人参やピーマン、ししとうに、兵庫県産のお肉など丹波の魅力をまるごと堪能できました。
また、この日は大阪から丹波篠山市へ移住した中西さんが、キッチンカーでスリランカカレーを出してくれることに!
中西さんは、丹波篠山市で参加した農村ボランティアをきっかけに、「黒枝豆」の魅力にはまり、2023年4月に大阪市内からご家族で丹波篠山市へ移住しています。
その後は、冷え切った体を温めるためにテントサウナに入る人や、コワーキングスペースで仕事を再開する人、ダーツで盛り上がる人など、皆思い思いに時間を過ごしていました。
まちの文化や歴史を学ぶ。今後の地域づくりのヒントを知れた3日目
早いものでワーケーションも最終日。3日目の朝ヨガは2日目と比べて、ちょっと動きのあるプログラムでした。朝一番にゆっくりと体を動かすことで、眠気も吹き飛びます。
3日目の朝ごはんは洋食。地元でとれた食材が中心で、とてもバランスがとれた内容でした。最終日ということもあり、すっかり打ち解けてお互いの仕事の話へ。普段あえて深く話すことがないタスクマネジメントや仕事術などについて共有できるのは、まさにワーケーションならではの醍醐味ですね。
チェックアウト時に皆で撮影。ワンちゃんも一緒に。
「yogaのおうちLOKATE」を後に、丹波・佐治の街へ。ここからは、1日目の交流会にも参加していた出町さんに案内してもらいます。
佐治一帯は、江戸時代に現在の亀岡から豊岡へ抜ける宿場町として発展しました。和紙や養蚕が盛んで、佐治木綿(さじもめん)という名前で、西陣織や丹後ちりめんの原料として供給されていたといわれています。しかし、工業化とともに需要が減り、衰退の一途をたどりました。その後、研究者や地元の人の手によって「丹波布」という名前で復興。歩いてみると、宿場町で隆盛したその名残りを街並みの景色から感じることができます。
衣川會舘(きぬがわかいかん)は、その昔庄屋だった「衣川家」の家屋をリノベーションした建物です。1Fはイベントスペース、2Fは現在改修中で4月にコワーキングスペースとしてのオープンを目指しているそうです。
また、「毎月第4日曜日に行われる催事「サジイチ」に合わせて、このスペースでは「キヌイチ」と呼ばれるマルシェが開催されています」と出町さん。
<施設情報>
衣川會舘(きぬがわかいかん)
住所:兵庫県丹波市青垣町佐治608
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出町さんが管理・運営する「本町の家」「センバヤ」「竹岡邸」を案内してもらいました。元自転車店の空き家を改修して作られた地域の活動拠点「本町の家」。現在は、文具の販売や多数の本を陳列して「街の図書館」とするなど、さまざまな形で活用がなされています。
<施設情報>
本町の家
住所:兵庫県丹波市青垣町佐治585
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「センバヤ」は、創業300年の薬屋を営んでいた空き家を改修した施設で、地域でカフェやお店、教室などを開業したい方に、チャレンジショップとして貸し出しています。
「センバヤという名前は、薬屋さんの屋号「千葉屋」が由来となっています。また、当時の趣を感じてもらえるよう、その頃に使用されていた調剤室や薬箪笥、金庫などはそのまま残しています」と出町さん。
<施設情報>
センバヤ
住所:兵庫県丹波市青垣町佐治549
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最後に「竹岡邸」へ。
ここは、もともと診療所兼自宅だった場所を改修して作られた移住体験宿泊施設で、2022年5月にオープン。
<施設情報>
竹岡邸
住所:兵庫県丹波市青垣町小倉55−2
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出町さんが手がけた施設をみて、参加者からは「『町を守っていく』という想いと、『新しく来てくれた人が革命を起こしていく』という関わりしろがあって、その街の未来は作られていくのではないか」「清水さんや出町さんのようなキーパーソンの存在が不可欠。行政が完全に主導せずに、外部を受け入れる土壌づくりをすることが重要」といった感想や意見が挙がりました。
正午を回り良い時間になったので、近くにある「みのり食堂」へ、お好み焼きを食べに。平日ということもあり、地元の人で賑わっていました。
<施設情報>
みのり食堂
住所:兵庫県丹波市青垣町小倉893-2
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その後、「衣川會舘(きぬがわかいかん)」に戻り、このワーケーションの振り返りを。
参加者の方からは以下のような意見をいただきました。
- 地域創生だと、外向きの活動が重要視されがちだが、そこに住む人々の思いや意見を大切にすることが、町の活性化において根本的に重要であることを知れた
- ワーケーションを通して、切り替え、メリハリの大事さを改めて実感できた。「農ある暮らし」をするうえで、今回のワーケーション体験はとても貴重なものになった
- 普段別々の環境で働いている人たちと数日間ともに過ごすなかで、日々の業務に対する悩みや、仕事の仕方・姿勢を改めて見直すことができた
まとめ
丹波というと、黒豆や栗などのイメージが強かったですが、今回のワーケーションでは、丹波・青垣という中山間地域に訪れ、丹波に根付く農作物や文化に深く触れ、また現地で活躍するプレイヤーの話を聞き、より一層丹波の魅力に触れられる機会となりました。
自然と関わる生活や農的な暮らしに興味がある方は、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか?

■ライター名
俵谷 龍佑(たわらや・りゅうすけ)
■所属
FUNNARY-Writing Office
■プロフィール
東京都府中市出身。両親の転勤の関係で幼少期に川崎→鹿児島→福岡→埼玉と各地を転々とする。新卒で広告代理店に入社後、 2015年にライターとして独立。現在はECサイトのSEO対策、BtoBの領域を中心としたメディアの立ち上げやディレクションなど記事制作にまつわる業務全般を担う。2021年に京都へ移住。国内外のコワーキングスペースとホテルデイユース巡りが日課。